今年2019年は瀬戸内国際芸術祭(以下瀬戸芸)が開催される年だ。トリエンナーレなので、3年に一度の大きなイベントである。
2004年に安藤忠雄の地中美術館が直島にでき、2010年から瀬戸芸が始まった。小さな美術館やギャラリーも沢山できはじめ、瀬戸芸のためにつくられたインスタレーションなどが島々に蓄積している。
瀬戸内海には小さい島々が沢山ある。温暖で、海はおだやか。びっくりするほどのキレイな情景なので、一度是非訪れてほしい。
瀬戸内国際芸術祭の秋会期はじまる
今年の瀬戸芸の会期は3つ。ふれあう春、あつまる夏、ひろがる秋だ。この秋会期が9月28日にはじまった。
もちろん、沢山の島々でいろいろなイベントがあるのだが、伊吹島というところにジョグジャカルタのアーティストが展示をするというので、その様子を紹介したいと思う。
まず、公式のPR動画どん。
伊吹島ってどこ?
伊吹島が位置するのは香川県の一番西側だ。岡山駅や高松駅から電車で1-2時間ほど行くと、香川県観音寺港に到着する。そこからフェリーで25分行くと伊吹島に行ける。他の開催地である島々とはフェリーで繋がっていないので、うーん、遠いよ!って感じかもしれない。
だが、その分独特の文化が残っていて方言にも平安時代のアクセントが残っているそうだ。良質な煮干し「伊吹いりこ」が特産品である。出部屋と呼ばれる出産を終えた母子が1か月間共同で暮らす産院が 昭和45年ごろまであったそうだ。(台湾で今現在も使われている、月子のようなものだろう。もしかして、ルーツが一緒だったりして・・・)

ジョグジャカルタの参加アーティスト
そんな伊吹島とジョグジャカルタがつながる今年。
参加アーティストは、ジョグジャカルタで一番存在感を放つ日本人アーティストの栗林隆さん、インドネシア人アーティストで国を代表するEko Nugrohoさん、ジョグジャカルタの古参アートスペースCemetiArtHouseの設立者 Mella Jaarsma さん Nindityo Adipurnomo さんご夫婦だ。
また、日本人アーティストの横内賢太郎 さん がジョグジャカルタで運営するArtistSupportProjectも参加し、インドネシアと日本の架け橋になった。(ArtistSupportProject通称ASPは、日本人アーティストのレジデンスを受け入れたり、展覧会やプレゼンテーションを企画する、日本とジョグジャカルタの架け橋のような役割をしているスペース。また詳細を紹介したい。)
壁 Eko Nugroho
「壁」の中に「壁」を意識する
空き家の中に新たな「壁」を立て、境界を感じさせるように空間をつくる。来場者は様々な驚きに遭遇しながら屋内を巡る。新たな「壁」が、人と社会の関係、国家間の関係に疑問を投げかけ、人々が自分自身のためにどのように国境を築くかのアナロジーとなる。私たちのリアルな社会に結びつき、限られた小数を優先するグローバル経済の現況批判を含んだ作品。 (瀬戸内国際芸術祭HPより)
パサング‐ふたつのものすべての中に Mella Jaarsma Nindityo Adipurnomo
「ふなだまさん」と2つの手から
「パサング」とはインドネシア語で潮流、またはペアを意味する。伊吹島の歴史資料で見つけた2枚の古い写真、地元漁師が漁船に持ち込んだ木製の家形お守り「ふなだまさん」を2つの掌に載せた様子、いりこ漁で網を引く2艘1組(ペア)の漁船の様子から発想を得て、コスチューム、小屋のオブジェなど、夫婦アーティストがそれぞれ作品を制作・設置する。
島民参加によるコスチューム製作や、それを着るパフォーマンスも予定。 (瀬戸内国際芸術祭HPより)

伊吹の樹 栗林隆
出部屋で生まれ変わる
伊吹島には出産前後を女性だけで集団生活し、家事から解放され養生する風習があり、その場所を出部屋(でべや)と呼んでいた。生命の誕生の場である出部屋の跡地に、作家は生命の樹を植える。横たわった大きな生命の樹は子宮を表し、地面と樹との空間をすり抜けることは母体からこの世界に出ることを意味する。 (瀬戸内国際芸術祭HPより)
ヤタイトリッププロジェクト

上記の3つのメインプロジェクトのほかに、関連プロジェクトとして、「ヤタイトリッププロジェクト」と「Collective Storytelling」を開催したそうだ。
2009年から行われている一輪車のヤタイで世界中の境界を旅する「ヤタイトリッププロジェクト」。今回はインドネシアで活動するアーティストやインドネシア在住の作家 横内賢太郎が企画するアーティスト・サポート・プロジェクト(ASP)とコラボレーションを行い、歴史的に重要な場所である伊吹島に5台のヤタイを展開させる。(配布チラシより引用)

ヤタイは簡易的な装置だが、簡単になにもない場所を「場」や「空間」にする力がある。日本も昔は屋台だらけだったそうだが、近代化の中で禁止された。香港などでも禁止の動きがある。だが、それらを除いたアジア一般に、屋台というのは庶民文化やコミュニティを支える「最小単位のインフラ」として支持され続けている。
「コミュニケーションのツール」としてのヤタイにより、どういった議論が伊吹島で生まれたのか、そんな話をまた伺ってみたいと思う。

Collective Storytelling

「Collective Storytelling」 では、 横内賢太郎、菊池聡太朗、安田葉、武弓真実、松本散歩、Huda Tula、 Kukuh Hermadi、 Munif Rafi Zuhdi、Thank UFO (Forrest Wong+武弓真実)、Forrest Wong、P(art)Y LAB が参加した。
タイトルにある、「Collective」というのは、
作家同⼠が協働グループ(コレクティブ)を形成し、それぞれの作家がアーティストだけでなく複数の肩 書き(例えばキュレーター、バリスタ、ミュージックレーベル主宰、実験映像研究家、司書、森林保護活 動家、ワークショップ研究家など)を持ちつつ専⾨的なスキルを臨機応変に組み合わせて時代の潮流に先 駆ける活動を⾏っている。(Collective Storytelling 説明より)
という風にあるように、 ジョグジャカルタのアートシーンを支えるのは、コレクティブと呼ばれる作家同士の協同グループなのだ。
「Collective」をテーマに据えた今回の展示は、各々が好きなことをやっているような、自由な雰囲気だ。
菊池聡太朗 さんはジョグジャでリサーチしていたウィスマ・クエラの経験を再構成する形で写真などを展示。武弓真実さんは伊吹島のイリコ漁で使われていた、繕われた網をもらってきて、島との関わりの中から 公開制作中。 安田葉さん はインドネシア式の凧の作り方を学び、今回二艘の船でイリコ漁をする船の形を凧にする作品を制作。
彼らのグループは、瀬戸内の展示前にニューヨークのSynesthesiaという場所で展示をしており、それら作品を送って展示を作ったそうだ。
伊吹島のお祭りがあったようだよ
伊吹島や観音寺にはちょうさ祭りという、ちょうさ=太鼓台の山車のお祭りがあるそうで、今年2019年は10月6日に開催された。
座布団が重なったような意匠はとてもかわいらしい。これを船に乗っけて、ぐるりと回るというお祭りのようだ。山車にたくさん大漁旗がついているのもかわいい。



インドネシアのジョグジャカルタという街と、日本の瀬戸内の小島が繋がった今年の瀬戸内国際芸術祭。 グローバルにつながる現代は、思いもよらぬ場所がつながることができるのが良い。
ジョグジャカルタという街の雰囲気がいくらか伝わっていたらうれしいと思う。
(情報・写真提供 横内賢太郎)
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